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2011年8月21日 (日)

坊ちゃんの時代、再び♪ 関川夏央・谷口シローの世界

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「坊ちゃんの時代」 

関川夏央・谷口ジロー 双葉社 1987年7月・刊

夏目漱石が「吾輩は猫である」を執筆し、次の小説に取り掛かろうかという時代です。 明治38年、急速に西洋文化、西洋の風習が流れ込んできた時代。 考え方、生き方の自由、未だ「ちょんまげ」と「旧藩」の尻尾を引きずっている時代。 その時代に新しい生き方を模索する青春群像、今改めてこの作品の良さが理解できます。

「週刊アクション」誌上に発表されたのが、1986年12月、漱石を中心に明治の文豪が闊歩する時代絵巻を描き綴った一遍は翌7月に単行本として世に現れた。 関口夏央の綿密に計算されたテーマと谷口ジローの息吹さえ感じられる画質が相まって「生きている明治」を肌に感じた。 多分に脚色もあるが同時代に邂逅したかも知れない文豪たちの「その時代」が目の当たりに浮かび上がる情景に狂喜したものである。 その後、続刊が出版され、全五巻が終了するまで十年の歳月が費やされた壮大な明治文壇叙事詩です。

一巻目は、漱石が「坊ちゃん」の構想を練る明治38年から出版後の39年までを描いている。 関口流の解釈、縦横に枝葉を広げる文豪たちの交流と、細かい日常の出来事さえ描き切る谷口の筆づかい・・・ 本好き、文芸好きなら、一度は手に取って欲しい一冊です。

私事ながら、初版ですべて揃えてあったものを、知人に貸したがために戻ってまいりません、文庫版で揃えようとも思いましたが、ペンタッチの細かさに広さが足りません。 で、再び単行本(A5判)を古本屋で見つけ揃えました。 教訓です、いかに自分の好きな世界を他人に教えようとして、自分の大事なものをその人に預けてはいけません。 相手の感覚は自分とは違うのですから・・・ それが身内なら尚更です。

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●坊ちゃんの時代 第二部 「秋の舞姫」

関川夏央・谷口ジロー 双葉社 1989年10月・刊

坊ちゃんの時代 第二部  主人公が森鴎外に移ります。 インド洋上で病死した二葉亭四迷を導入部として鴎外と四迷の邂逅と、代表作「舞姫」の主人公「エリス」との悲恋を交えて物語は進みます。 ひとり、横浜港に降り立ち地理も判らず歩き出すエリスに手を差し伸べる「雨森信成」と「西郷四郎」、東京は築地の「精養軒」まで案内します。 そこで鴎外を待つエリスに四迷は通訳を買って出る。 帰り道では一人の少女に犬を託される四迷、樋口一葉という16歳の少女であった。 朝日新聞社にての四迷と漱石の出会い、石川啄木に語る鴎外の青春。 三州三河の「常」、ご存知「吉良常」と女郎の悲恋、エリスと西郷四郎が手助けするが、迫る追っ手に絶体絶命。 あわやの窮地に「広瀬武夫」率いる海軍訓練生が現れる。 いったんは平安を取り戻したかに思われた矢先、再度の逆襲に合う。 もはやこれまでと思われた時、仲裁は時の氏神「清水の次郎長」の出現で目出度く「手打ち」。 初めての日本、目まぐるしいまでの展開の後、鴎外の心変わりに涙し、ひとり傷心のエリスは西郷の人力車にて帰郷のため横浜港へ向かう、滞在日数わずかに36日であったという。

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●坊ちゃんの時代 第三部 「かの碧空に」

関川夏央・谷口ジロー 双葉社 1992年1月・刊

時は明治42年、主人公「石川啄木」を中心に明治のうねりを描く。 啄木のイメージは繊細で赤貧にあえぎ、生活の歌を詠んだ抒情歌人のイメージだったのですが、ここに描かれる啄木は、金銭感覚のない、自堕落で酒好きで女好き、怠け者の借金男です。 小説家を目指して上京するも、一向に芽が出ない。 若き日の「金田一京介」も小説家を目指すが、才能に見切りをつけて「アイヌ語」の研究に進む。 金田一は貴重な蔵書を売って、啄木を支援する。 そんな金田一と啄木の交流と朝日新聞時代の漱石や菅野須賀子、幸徳秋水らとの出会い、社会主義に共感を持つものの、日々の糧さえ一夜に消える浪費癖は治らず。 親友金田一への借金は〆て100円に、上京後1年半にして総額297円50銭の借金から考えると、いかに金田一が援助を惜しまなかったかが分かります。 ちなみに、この時の啄木の給料は25円です。 それすらも給料日当日、20回分の都電回数券を70銭で買い(啄木は市街電車に乗っている時間が生活苦から逃れられる唯一の別世界と感じていて、電車に乗るのが好きだったようです)、吉原に行き.、俥まで帰る。 溜まった下宿代20円を払ったら手元には1円50銭しか残らなかったこともあったとか。 前借の繰り返しもさもありなん、という暮らしです。 しかも、北海道には母も妻子も残して来ている状況です。 この時代25円あれば家族を呼ぶことも出来たのです。 しかし、啄木は「女郎買い」や「酒に溺れ」、自堕落な生活とは縁を切れない。 27歳で世を去る2年10ヶ月前に無理やり上京してきた家族と同居した後も自堕落な生活は治らなかったそうです。 

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●坊ちゃんの時代 第四部 「明治流星雨」

関川夏央・谷口ジロー 双葉社 1995年5月・刊

時代は明治42年、いわゆる「大逆事件」を扱い、幸徳秋水、菅野須賀子を巡る物語に。 時の天皇暗殺を計画したとされ、全被告26名のうち24名に死刑判決を下し、12名を死刑にした。 12名は無期懲役、2名に8年、11年の有期刑となった。 事件自体は計画性のないもので、社会主義、無政府主義の弾圧による「冤罪事件」とされている。 この中で゜描かれる「菅野須賀子」の数奇な人生を魔性の女と呼ぶか、男運の無い寂しい女性とみるかが分かれるところである。 16歳で義母による手引きで酔漢に犯される、17歳で商家に嫁ぐが夫が極度のマザコンで、実の母と関係を持っていると知り大阪に逃げる。 大阪文壇の重鎮の家に内弟子として入門。 しかし、この時代は内弟子=情婦と同じ扱いであった。 2年の後、京都に出て新聞記者になる。 このころ立命館の事務の仕事をしていた腹違いの兄とも関係を持っている。 なおかつ立命館館長とも同時期関係を持つ。 もつれた糸を清算しようと紀州田辺の新聞社に移り住むも、そこの社主とも関係を持ってしまう。 この地にて「荒畑寒村」と出会い、やがて東京で同棲生活に入る。 寒村との関係から平民新聞の「幸徳秋水」とも関係を持ち、社会主義に関わって行く。 この巻にも漱石、啄木、鴎外は登場するが、多くは幸徳秋水、菅野須賀子の生き方が中心で、刺身のツマ程度である。 大逆事件の後、時代は軍国主義に大きなうねりを見せ始める。 折りしも「ハーレー彗星」が地球に大接近した、明治43年5月の事でした。

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●坊ちゃんの時代 第五部 「不機嫌亭漱石」

関川夏央・谷口ジロー 双葉社 1997年8月・刊

シリーズ最終巻、物語は「夏目漱石」に戻る。 明治43年、漱石は重度の胃潰瘍による転地療養のため修善寺・菊屋本店に滞在していた。 8月から10月の二か月ほどである。 8月24日に大喀血し生死の淵をさまようが持ち直し小康を得る。 この間30分ほど意識不明になるが、漱石は「単に寝返りを打ったのみ」と話していたという。 この本ではその間に、石川啄木の案内のもと漱石が一巻から四巻までのエピソードを紡いでいく。 森鴎外や「エリス」、 秋水や須賀子、恋心を抱いた大塚楠緒子との出会い、正岡子規、高浜虚子との邂逅・・・ 今回初めて漱石の妻・鏡子夫人が登場するが、微妙なカット割りで一貫して顔の描写が無いのが粋というか不思議というか。 晩年の漱石は言動も危なげで、他人には見えない猫を相手に話すなどのエピソードも交じる、小説にもなった黒猫は二年前に死んでいるのだが・・・ 大正五年十二月九日 午後七時前  漱石死す。

以上、「坊ちゃんの時代」全五巻を駆け足でご紹介いたしました。 単行本では無理かと思いますが、せめて文庫判ででも「明治の息吹」を感じていただけたらと思います。

いつもありがとうございます。

では、又♪

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コメント

明治は好きな時代です。
特に江戸情緒の残る明治の景色は、見ていないのに見た感があります。

 漱石・鴎外(鴎はこの字しかでないのですよね)は中学から高校にかけて読んだ、私の文学の基礎であります。

 おなじみの歌人や文学者の名前に心ときめきます。

 啄木の放蕩は調査済みであり、文学史大好きの私は、どうしてもこの本が読みたいです。

 どうかこのシリーズを貸して下さい。
ちゃんと返します。

投稿: しいか | 2011年8月23日 (火) 02時32分

しいかさん、おはようございます♪

明治の文豪と谷口ジロー、多分ご興味がお有りかと思いました。
たぶんに演出があると思いますが、以外な人物たちの交差が物語のアクセントになっております。

10年間の労作を一気読みも小説(コミックス)の醍醐味でしょう。
是非、ご堪能下さい。

次回の「読書会」に持参します。

いつもありがとうございます。
では、又♪

投稿: ぶんぶん | 2011年8月23日 (火) 08時24分

ちょっと、的はずれというか、本に対するコメントではありませんが、私も自分の大好きな世界を人に伝えたくて、また、伝わると安易に信じて、大島弓子のコミックスを5巻貸しました。却ってこなくて仕方なく、文庫版になったものを買いました。コミックスは手に入らなくて、グス・・・あっと気付いたときに引っ越していませんでした。手元に置いておいてくれればすくわれます。

投稿: MASAE | 2011年8月24日 (水) 21時19分

MASAEさま、こんばんは♪

お気持ちは解ります。
こんな素敵な世界があるのですよと、ただ伝えたかったのに、その世界ごと持って行かれてしまっては・・・

たぶん、「本」に対するスタンスなのでしょう。
ただ、紙にインクで書いたものという捉え方かもしれませんね。

淋しいのは、その作品に対する「感想」が聞けない事かと・・・

忙しいときに、コメントありがとうございました。

ま〜ちゃん、ひとりじゃないから、周りの人と一緒にがんばって!

いつもありがとうございます。
では、又♪

投稿: ぶんぶん | 2011年8月24日 (水) 23時33分

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